mardi 25 septembre 2012

場踊り / 田中泯 @Theatre de Bouffes du Nord

毎年この時期にパリでは、秋の芸術祭 (FESTIVAL D'AUTOMNE A PARIS)が行われてます。アート、ダンス、演劇、音楽など、この時期にたくさんの公演がパリの様々な劇場で企画されています。
そして、今年は日本が特集されていて、ダンスからは、田中泯さん、笠井叡さん、他にも、演劇からは平田オリザさん、音楽からは池田亮司さんなどなど、そうそうたる方々がパリで公演されます!!楽しみですね。

その中で、先頭を切るのは、田中泯さん
その公演に先駆けて、日本文化会館で行われた講演会にも参加してきました。



パリに初めて78年に招聘されて、裸体で地を這うように踊る日本人に衝撃を受けたパリの人たち。当時警察に囲まれたこともあったとか。

田中氏の、ダンサーとなるいきさつや、どのようなことを考えて踊りをしてるのかについてなどなど、とても面白い内容でした。 

会場に現れた田中氏は、とても静かな面持ちで、ゆっくりと席に着く。そうすると、会場のずれていた、ざわめいていた空気は、すうっと秩序よく収まり演壇に向かってぎゅっと整列しなおした。
私は、こっちに来てから毎月のようにダンスや舞踏を観ているけど、なんで、こんなに惹かれるのだろうっていう疑問に対する答えに、まだ言葉には上手くできないけど、少し近づいたような、ヒントを得た気がしました。

講 演中は、厳しい表情でするどい目をして真剣に考えながらお話をされていたのですが、ときおり見せる、目尻にぎゅっとしわをよせる、おもわずこぼしてしまっ た笑顔がとっても印象的でした。日本では農業をしながら生活し、自然の中から踊りが生まれてくる瞬間を捉え、自分の命より踊りが大切だと語る、ダンサー田 中泯の生の声を直に感じることができて、とても貴重な体験でした。

そして、土曜日の公演。



初めて訪れた、1876年に建てられたTheatre de Bouffes du Nord
何度も名前が変わったり、ところどころ改修工事はされてはいるものの、当時の趣の残る、とってもすてきな劇場でした。







あ ちこちゆがんでいたり、文字や壁画が消えかかっていたり、床が落ちてしまうんじゃないかと心配になるくらいの劇場。でもそれらが、これまで100年以上も ここで行われてきた公演のダンサーたちや役者、音楽家たちの見えないその凝縮された空気感、それと観客たちの感動や驚きや、いろんな思いを物語ってるよう に感じました。
そして、この劇場の驚いたところは、舞台と観客席との境界がないところでした。一番前の席は舞台と同じ、その延長上にあります。バルコニーから見ると大きな舞台に感じるけど、下に降りてみると舞台との距離は思ったよりもかなり近いです。

そんな、歴史の充満してる劇場での、今回の「場踊り」。
「私は場所で踊るのではなく場所を踊る」
そう語られるように、日本全国、様々な場所で、その場を感じたまま踊る。



縄で作られた人形たちが舞台にいました。
そう、まるで、観てる人たちが向こう側にもいるように。輪になってるところで踊ってるよう。
真っ暗な中ろうそくだけを持って、古ぼけた大きな羽織をまとい帽子をかぶって、お酒に酔った浮浪者みたいな様子で舞台に登場。ところどころで流れる朗読のテープ以外の音はない。静かな劇場に響く観客の咳払いに呼応するように、田中泯は数回、咳をした。そして、ときおり狂ったようなひきつった笑い声をあげる。

こ の暗がりの中のろうそくの小さな明かりと共に踊っていたのですが、3階席のバルコニーからはほとんど見えません。でも劇場全体に視野を広げてみると、劇場 に広がるその大きな影で語ってるのが分かったときは、こころが踊りました。日本各地では野外で自然の中で踊ることが多い「場踊り」ですが、今回はパリのこ の劇場の特徴を十分に活かした、照明が雰囲気を盛り上げていました。自然との対話から、この百数十年の劇場と向き合うことで生まれた踊り。限定された空間 は劇場の特権のはずなのに、劇場にいることを忘れて、この丸い空間だけくりぬかれてしまって、田中泯の古ぼけた羽織の中に吸い込まれた感じ。

寝入り端にふっと底なしの空間に落ちて行く感覚が怖くて無理矢理にも目を覚ますように終わった公演に、会場からわき上がる拍手はずっとやみませんでした。